2020-01-01から1年間の記事一覧

41. デ・メイ:交響曲第1番『指輪物語』

80年代に入る前後からオランダで次々名前を広めていった作曲家たち*1のなかでも、ヨハン・デ・メイ Johan de Meij (1953-) が吹奏楽の編曲*2からキャリアを始め、初めて書いたオリジナルな大規模作品である交響曲第1番『指輪物語』Symphony No. 1 "Lord of t…

39-40. ヴァン・デル・ロースト:アルセナール / カンタベリー・コラール

ベルギーのヤン・ヴァン・デル・ロースト Jan van der Roost (1956-) も、ヨーロッパの吹奏楽界に一時代を画したスターと言える存在です*1。ヨーロッパのバンド作曲家の常として、コンサートバンドだけでなく英国式ブラスバンドにも大小問わず作品を提供して…

37-38. スパーク:祝典のための音楽 / 宇宙の音楽

フィリップ・スパーク Philip Sparke (1951-) は、70年代後半から80年代*1にブラスバンド界のスターとして登場し、そのまま現在に至るまで第一線の作曲家として支持されています。個々の作品のどれを推すかについては詳しい人がたくさんいるので、雑な区分け…

appx. 英国式ブラスバンド - テストピース主要作曲家、作品(未整理)

ひとまず2000年前後までに限る。太字はブラスバンド的に特に重要と思われる作曲家。 Percy Fletcher: Labour and Love (1913), An Epic Symphony (1926) Cyril Jenkins: Coriolanus (1914), Life Divine (1921) Gustav Holst: A Moorside Suite (1928) Edwar…

ex. 戦後ヨーロッパの吹奏楽作品

戦前に書かれた曲にはジャンルの核となる吹奏楽作品が並ぶヨーロッパですが、1940年代あたりからレパートリー創出の中心は完全にアメリカに移り、管楽合奏・管楽オーケストラ作品*1を除くと寂しい状況が続くことになります。――という話をもう少し細かく言う…

36. シュワントナー:…そしてどこにも山の姿はない

ジョセフ・シュワントナー Joseph Schwantner (1943-) が最初に触れた楽器がギターであり、その後もピアノやハープ、打楽器といった音が減衰する楽器ばかりを偏愛するようになるのはとても示唆的なことに思えます。その資質と、管楽器音楽との親和性は決して…

34-35. ネルソン:ロッキー・ポイント・ホリデー / パッサカリア

ロン・ネルソン Ron Nelson (1929-) は世代としてはチャンスやマクベスに近いころの人で、『ロッキー・ポイント・ホリデー』Rocky Point Holiday (1966) も彼らの試みと並行して書かれた作品ですが*1、この時期塗り替えられはじめていた吹奏楽の音色のパレッ…

32-33. バーンズ:交響曲第3番 / パガニーニの主題による幻想変奏曲

ジェイムズ・バーンズ James Barnes (1949-) が吹奏楽界の重鎮であることは間違いありませんが、改めて考えてみると、アメリカにおけるその立場は特徴的なものと言えそうです。その音楽は、ここまで繰り返し言及してきた「アメリカナイズされたロマンティシ…

31. C.T.スミス:フェスティヴァル・ヴァリエーションズ

日本においてクロード・トーマス・スミス Claude Thomas Smith (1932-1987) といえば、その創作歴のなかではどちらかといえば少数に属する、華麗で奏者に大きな負荷をかける作品――特に早い晩年に入って書かれた*1、『フェスティヴァル・ヴァリエーションズ』…

29-30. ジェイガー:シンフォニア・ノビリッシマ / 交響曲第1番

ロバート・ジェイガー Robert Jager (1939-) の作風は手広く分布しています。一方の極には、後期ロマン派をはっきりと下敷きにした『ヒロイック・サガ』Heroic Saga (1982) や Epilogue: Lest We Forget (1991) があり、もうすこし20世紀的にすると、作者自…

27-28. A.リード:アルメニアン・ダンス / オセロ

アルフレッド・リード Alfred Reed (1921-2005) の唯一の単著に、"Balanced Clarinet Choir" (1955) があります。一言で言えばバンドにおけるコントラバスクラリネットの必要性を説く本ですが、コントラバス音域の楽器が和音を支える重要性を述べるにあたっ…

26. フサ:プラハ1968年のための音楽

カレル・フサ Karel Husa (1921-2016) の名作『プラハ1968年のための音楽』Music for Prague 1968 (1968) について話すにあたっては、まずその楽器編成に触れることになります。フルートセクションやトランペットが最大8パートに分かれ、バスサックスやコン…

24-25. チャンス:呪文と踊り / 朝鮮民謡の主題による変奏曲

ご多分に漏れず、ジョン・バーンズ・チャンス John Barnes Chance (1932-1972) もまず中学校と高校で吹奏楽に触れています。高校時代に書いた管弦楽曲はラフマニノフ風のロマンティックな音楽で、大学を卒業するころに影響を受けていたのは、シベリウスやシ…

23. マクベス:マスク

ウィリアム・フランシス・マクベス William Francis Mcbeth (1933-2012) の吹奏楽作品リストは20代のころに遡ります。学生時代の作品の一つである『第二組曲』Second Suite (1960) は、師であるC. ウィリアムズとの距離が近い、健康的に前進していく音楽です…

22. ネリベル:2つの交響的断章

新古典主義の子、ということではチェコ出身のヴァーツラフ・ネリベル Václav Nelhýbel (1919-1996) も例外ではありません。チェコ時代やアメリカ移住直後の作品を聴く機会がないのは残念ですが、吹奏楽の分野で名声を確立した1960年代前後の作品を聴くと、鋭…

21. ベンソン:落葉

若いころから打楽器奏者として活動していたウォーレン・ベンソン Warren Benson (1924-2005) は、仲間の管楽器奏者が新しいレパートリーを欲していることを知って、管楽器や吹奏楽のための作品に力を注いだと語っています。作品リストのほぼ最初から吹奏楽作…

20. ビリク:ブロックM

ジェリー・ビリク Jerry H. Bilik (1933-) がコンサートマーチ『ブロックM』Block M (1955) を作曲したとき、彼はまだミシガン大学で音楽教育を学ぶ学生でした。ミシガン大学のバンドがこの作品を演奏したときのプログラムがネットにありますが*1 、ビリク (…

19. C.ウィリアムズ:交響組曲

(アメリカの)吹奏楽曲創作史に流れを見出すなら、クリフトン・ウィリアムズ Clifton Williams (1923-1976) がその軸に組み入れられることは間違いありません。作曲賞によって作品創作に(限定的とはいえ)評価軸が形成されていく先頭に位置すること、のち…

18. ジャンニーニ:交響曲第3番

ヴィットリオ・ジャンニーニ Vittorio Giannini (1903-1966) の吹奏楽作品の特色は、そのロマンティックな色彩にあるのではないでしょうか。彼の作風は、19世紀ロマン派そのものの初期*1から、少しずつ同時代の響きを取り入れてテンションや開放感の幅を広げ…

17. H.O.リード:交響曲『メキシコの祭り』

ハーバート・オーウェン・リード Herbert Owen Reed (1910-2014) の作風はやや捉えにくいものがありますが、大づかみにするなら新古典主義の流れに連なる明快なテクスチュアに加えて、アメリカ大陸のフォークロアを取り込む志向が見出せます。例えば『悲運の…

16. ロバート・ラッセル・ベネット:古いアメリカ舞曲による組曲

生涯で20曲近くの吹奏楽作品*1を残したロバート・ラッセル・ベネット Robert Russell Bennett (1894-1981) は、同時代のアメリカの作曲家の多数と同様、パリでナディア・ブーランジェに師事し、新古典主義の潮流をくぐっています。『4つの前奏曲』(1974) あ…

15. W.シューマン:ニューイングランド三部作

ウィリアム・シューマン William Schuman (1910-1992) も新古典的なアメリカの作曲家の一人で、『第3番』(1941) をはじめとする交響曲群で知られています。ほかの作曲家たちと比べるとシューマンは外向的な親しみやすさを素直に打ち出す方向とも親和性があり…

14. パーシケッティ:ディヴェルティメント

1940年代から始まっていた流れ*1が戦後、50年代になると本格化し、アメリカの作曲家たちによって吹奏楽のレパートリーは大きく拡大しました。そのなかでまず紹介するのがヴィンセント・パーシケッティ Vincent Persichetti (1915-1987) です。新古典的で、ア…

13. バーバー:コマンド・マーチ

交響曲第1番 (1936) や『弦楽のためのアダージョ』(1937、弦楽四重奏曲第1番から編曲) で若くして名声を得ていたサミュエル・バーバー Samuel Barber (1910-1981) は、開戦後の1942年に陸軍航空隊(のちのアメリカ空軍)に入隊*1、兵役と強く結びついた作品…

12. アルフォード:ボギー大佐

軍楽隊がある場所には必ず行進曲があり、たいていの国の吹奏楽団のためにマーチが生まれています。作品の受容は演奏会用の音楽以上に国や軍楽隊の状況に依存することも多く*1、国を越えてレパートリーになるにはいくつか関門を越える必要がありますが、実際…

11. タイケ:旧友

こと吹奏楽のためのマーチというジャンルではアメリカの蓄積が大きな存在感を持っているわけですが、それに対する対抗軸になりえるのがドイツです。ナポレオン戦争収束後の1817年には、プロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世*1のもとで、各連隊の軍楽…

10. フィルモア:サーカス・ビー

吹奏楽やマーチはとかく軍隊と結びつけて語られやすい分野ですが、必ずしも軍楽と直接結びつかない領域にも相応の歴史が存在しています。フランスの影響でアメリカに普及したバルブ付きの金管楽器やイギリスから来たキイ付きビューグルは19世紀前半から各地…

08-09. スーザ:星条旗よ永遠なれ / ワシントン・ポスト

ヨーロッパにおいて、軍楽の概念は少なくともローマ帝国に、行進のための音楽は16世紀ごろまでさかのぼるそうですが、吹奏楽/管打楽器合奏には連綿と軍楽のイメージが付き添ってきました。 フランス革命を機に大規模な軍楽隊が組織され、ハルモニームジーク…

ex. ストラヴィンスキーとシェーンベルク、と吹奏楽

20世紀の音楽史に屹立する二人の作曲家、アルノルト・シェーンベルク (1874-1951) とイーゴリ・ストラヴィンスキー (1882-1971) は、どちらもよく知られた「吹奏楽作品」を残しています。いろいろ考えた結果どちらも100曲からは外しましたが、当然無視するこ…

07. ヒンデミット:交響曲 変ロ調

パウル・ヒンデミット Paul Hindemith (1895-1965) は、ドイツ音楽の延長上から新古典主義(実際に使われるラベルとしては "新即物主義" ですが)を盛り立てた人、ということになるでしょうか。対位法への注力、機能調性からは離れているものの中心音は明確…