19. C.ウィリアムズ:交響組曲

アメリカの)吹奏楽曲創作史に流れを見出すなら、クリフトン・ウィリアムズ Clifton Williams (1923-1976) がその軸に組み入れられることは間違いありません。作曲賞によって作品創作に(限定的とはいえ)評価軸が形成されていく先頭に位置すること、のちに吹奏楽ジャンルに貢献する何人もの弟子を育てたこと、そしておよそ20年に渡って多数の作品をコンスタントに提供したことが理由で、どれをとっても吹奏楽曲創作に継続的な潮流を与えた貢献は絶大なものがあります。このジャンルに積極的に取り組む理由についてウィリアムズは、オーケストラが必ずしも新曲に優しくないのに対し、吹奏楽は新しい作品への需要が高く、演奏機会に恵まれているからと答えていて*1、これは現在でも吹奏楽に関わる作曲家が頻繁に口にするものです。

もっとも彼が、現在吹奏楽界で知られているような「クリフトン・ウィリアムズ」になるまでには段階があり、従軍中に作曲した Postwar Prelude (1943) や、イーストマン音楽院の修士修了作品を編曲した『ソナタアレグロSonata Allegro (1949) はオーケストラの弦楽を移し替えたような木管楽器のアンサンブルを主体に組み立てられていて、のちの輝かしいサウンドとは明確な距離があります。語法自体もロマンティックな色が濃く、のちの開放的な和声や、簡潔な動機を積み重ねていく展開法はまだ息をひそめています。

しかし、複数のバンドから演奏困難と判断され、改作のうえで応募したABA/オストウォルド賞を射止めた『ファンファーレとアレグロFanfare and Allegro (1954/rev.1956) では、金管や打楽器を活用し、力強いユニゾンを中心にした明快なテクスチュアによる剛毅なサウンドが完成しています。この作品は、いくつもの意味での転換点でした。

ただ『ファンファーレとアレグロ』はもちろん名作*2 ですが、個性的な発想を生のまま飲まされているような感じがあり、続いて作曲された『交響組曲Symphonic Suite (1956) のほうが、ウィリアムズのよく採用するコントラストのはっきりしたブロック構造を楽章に分割したよりわかりやすい構成で、ウィリアムズに触れるのに良い選択ではないかと思います。

死の直前までウィリアムズが書き継いでいった吹奏楽作品は数十作にのぼり、未出版作品も残っています。ほかの作品にも、同様の豪快な響きと綿密な構成が聴ける『献呈序曲』Dedicatory Overture (1964) *3や『ランパーツ』The Ramparts (1967) 、陽気なラテン情緒との抜群の相性を見せる交響的舞曲第3番『フィエスタ』Symphonic Dance No. 3, "Fiesta" (1967)*4、明るいサウンドを生かした勇壮なコンサートマーチのシンフォニアンズ』The Sinfonians (1960) *5、力強さとともに声高でない抒情を備えた『カッチアとコラール』Caccia and Chorale (1976) *6や『パストラーレ』Pastorale (1957) と、大事な作品には枚挙にいとまがありません。

『交響組曲』の演奏は、現在手に入りやすいところではコーポロン/ノーステキサスWS盤 (GIA Windworks, 2008) が不足のない演奏です。主要作品を総覧するようなディスクがないのがすこし面倒です*7

ドメインズ Domains

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  • 発売日: 2008/12/15
  • メディア: CD
 

 

ファンファーレとアレグロ

ファンファーレとアレグロ

 

 

*1:もともとは、イーストマン音楽院時代にハワード・ハンソンから同じアドバイスを受けていたといいます。

*2:フェネル/EWE (Mercury, 1959) の激烈な演奏も記念碑的なものですが、落ち着いて曲に集中できるのはフェネル/TKWO (佼成出版社, 1991) あたりだと思います。

*3:なにわ《オーケストラル》ウィンズ盤 (ブレーン, 2010) は曲のイメージを一変させる清冽な演奏。

*4:H.O.リード『メキシコの祭り』で紹介したダン/ダラスWS盤で聴きましょう。

*5:大井剛史/TKWO (ポニーキャニオン, 2017) を勧めます。エリス/ラウントリーWS (Mark Custom, 2012) は合唱を入れた貴重な演奏ですがちょっと録音が荒い。

*6:加養浩幸/航空自衛隊航空中央音楽隊 (CAFUA, 2009) がいいでしょう。

*7:中部アメリカ空軍バンド USAF Band Of Mid-America の "One Of Our Own: Clifton Williams" (Altissimo, 2012) という盤があるようですが今の時点では入手方法がわからず。