18. ジャンニーニ:交響曲第3番

ヴィットリオ・ジャンニーニ Vittorio Giannini (1903-1966) の吹奏楽作品の特色は、そのロマンティックな色彩にあるのではないでしょうか。彼の作風は、19世紀ロマン派そのものの初期*1から、少しずつ同時代の響きを取り入れてテンションや開放感の幅を広げていく過程をたどります*2。初めて書いた吹奏楽作品はゴールドマン・バンドのための『前奏曲アレグロPraeludium and Allegro (1958) で、この分野の作品はすべて創作歴の後期にあたるわけですが、それでも同時期のレパートリー群と比較するとそのロマンティックな性向は隠しきれないものがあります。

ほかの作品を見てももともとは弦楽の流麗な響きとの親和性が高く、パーツどうしが分離した構造でなくシンフォニックで充実した響きを求める傾向があります。吹奏楽の扱いも、多数で均質な楽器群(特にクラリネット群)を前提にした、密に積み上げられ、ブレンドされた音響を志向するもので、違った音色をはっきり対比し、ばらして配置していく新古典的な作曲家たちの試みとは趣を異にしています。

これが同世代で同じくイタリアにルーツを持つポール・クレストン Paul Creston (1903-1985) になると、シンフォニックで分厚い響きやロマンティックな志向は一緒ながらも、多彩なリズムの変化やフランス風の柔らかい和音を取り入れることでまた違った方向の明快さを獲得することになります。『祝典序曲』Celebration Overture (1955) や『プレリュードとダンス』Prelude and Dance (1959)*3など取り上げられる機会が多く、こちらもまた、新古典派勢力の中心からは少し外れた位置でこの時代を代表する吹奏楽作品の一角をなしています。

 

ジャンニーニがどのような伝統に根ざしているかをはっきりと示してくれるのが交響曲第3番 (1958) で、アメリカナイズされたあっけらかんとしたサウンドのロマン派交響曲を聴かせてくれます。両端楽章に見られるおおらかな前進性や、緩徐部での感傷はなかなか得がたいものです。劇性に寄ったもう一つの力作『変奏曲とフーガ』Variations and Fugue (1964) など吹奏楽のための全作品5作を収めたベネット/ヒューストン大学WE盤 (NAXOS, 2006) で聴きましょう。 

*1:30年代の歌曲を集めたアルバム (ACA Digital, 1991) が "Hopelessly Romantic" と題されているがごとし。

*2:ピアノ協奏曲 (1935) と交響曲第4番 (1960) を併録したスポールディング/ボーンマス響盤 (NAXOS, 2009) では対比がはっきりとわかります。

*3:前者は加藤良幸/陸上自衛隊北部方面音楽隊 (ブレーン/2015) 、後者はグレアム/アメリカ空軍ヘリテージ・オブ・アメリカ・バンド (Altissimo/Klavier, 1995) を推薦。サクソフォン協奏曲 op.26 (1966) も有名なソナタ op.19 (1958) と並んでレパートリーとして定着していて、ドゥラングル/リンドベルイ/スウェーデンWE盤 (BIS, 2013)が好演です。