18. ジャンニーニ:交響曲第3番

ヴィットリオ・ジャンニーニ Vittorio Giannini (1903-1966) の吹奏楽作品の特色は、そのロマンティックな色彩にあるのではないでしょうか。彼の作風は、19世紀ロマン派そのものの初期*1から、少しずつ同時代の響きを取り入れてテンションや開放感の幅を広げていく過程をたどります*2。初めて書いた吹奏楽作品はゴールドマン・バンドのための『前奏曲アレグロPraeludium and Allegro (1958) で、この分野の作品はすべて創作歴の後期にあたるわけですが、それでも同時期のレパートリー群と比較するとそのロマンティックな性向は隠しきれないものがあります。

ほかの作品を見てももともとは弦楽の流麗な響きとの親和性が高く、パーツどうしが分離した構造でなくシンフォニックで充実した響きを求める傾向があります。吹奏楽の扱いも、多数で均質な楽器群(特にクラリネット群)を前提にした、密に積み上げられ、ブレンドされた音響を志向するもので、違った音色をはっきり対比し、ばらして配置していく新古典的な作曲家たちの試みとは趣を異にしています。

これが同世代で同じくイタリアにルーツを持つポール・クレストン Paul Creston (1903-1985) になると、シンフォニックで分厚い響きやロマンティックな志向は一緒ながらも、多彩なリズムの変化やフランス風の柔らかい和音を取り入れることでまた違った方向の明快さを獲得することになります。『祝典序曲』Celebration Overture (1955) や『プレリュードとダンス』Prelude and Dance (1959)*3など取り上げられる機会が多く、こちらもまた、新古典派勢力の中心からは少し外れた位置でこの時代を代表する吹奏楽作品の一角をなしています。

 

ジャンニーニがどのような伝統に根ざしているかをはっきりと示してくれるのが交響曲第3番 (1958) で、アメリカナイズされたあっけらかんとしたサウンドのロマン派交響曲を聴かせてくれます。両端楽章に見られるおおらかな前進性や、緩徐部での感傷はなかなか得がたいものです。劇性に寄ったもう一つの力作『変奏曲とフーガ』Variations and Fugue (1964) など吹奏楽のための全作品5作を収めたベネット/ヒューストン大学WE盤 (NAXOS, 2006) で聴きましょう。 

*1:30年代の歌曲を集めたアルバム (ACA Digital, 1991) が "Hopelessly Romantic" と題されているがごとし。

*2:ピアノ協奏曲 (1935) と交響曲第4番 (1960) を併録したスポールディング/ボーンマス響盤 (NAXOS, 2009) では対比がはっきりとわかります。

*3:前者は加藤良幸/陸上自衛隊北部方面音楽隊 (ブレーン/2015) 、後者はグレアム/アメリカ空軍ヘリテージ・オブ・アメリカ・バンド (Altissimo/Klavier, 1995) を推薦。サクソフォン協奏曲 op.26 (1966) も有名なソナタ op.19 (1958) と並んでレパートリーとして定着していて、ドゥラングル/リンドベルイ/スウェーデンWE盤 (BIS, 2013)が好演です。

17. H.O.リード:交響曲『メキシコの祭り』

ハーバート・オーウェン・リード Herbert Owen Reed (1910-2014) の作風はやや捉えにくいものがありますが、大づかみにするなら新古典主義の流れに連なる明快なテクスチュアに加えて、アメリカ大陸のフォークロアを取り込む志向が見出せます。例えば『悲運の友に』For the Unfortunate (1971) などかなり無調的でシリアスな異色作ですが、やはり同じ特徴を見ることができます。

リード初めての吹奏楽作品は、勤務していたミシガン州立大学のバンドのために書かれた、ジャズの要素を取り入れた『スピリチュアル』Spiritual (1948) でした。この作品が演奏された縁でアメリ海兵隊バンドとつながりを持ったリードは、同バンドの指揮者だったウィリアム・サンテルマンの推薦状を得て、メキシコ音楽の調査と、その成果を生かした吹奏楽作品の作曲を目的として奨学金の申請を行いました。その結果生まれた交響曲『メキシコの祭り』La Fiesta Mexicana, A Mexican Folk Song Symphony (1949) は、強烈な異国情緒と親しみやすさによって彼の作品のなかでも特別な人気を誇っています*1

この作品の特徴の一つは楽器同士の重ねが極力避けられていることで、単一楽器群によるアンサンブルや単線どうしのハモりが多用され、鮮やかな色彩感とともにシンフォニックな充実が達成されています。特にホルンを単独で活躍させる手腕は出色です*2。ほかに目につくのは、打楽器の響きや、管楽器のオスティナートによって背景を設定し、その周辺に短い動機の呼応を配置していく空間的な書法です*3。こうして主張の弱い「地」を形成する手法は、楽器群を塊として扱うことの多いこの時代の吹奏楽作品にはあまり見られません。

H.O.リードと似たような方向性は、たとえばカリフォルニアのフォークロアに材を採ったロジャー・ニクソン Roger Nixon (1921-2009) の作品群、特に『ディオニソスの祭り』的な20世紀初頭のバーバリズムに強烈なラテン情緒を載せたような『太平洋の祭』Fiesta del Pacifico (1960)『パシフィック・セレブレーション組曲Pacific Celebration Suite (1979) といった作品*4にも見出すことができます。後の世代では、ラテンアメリカの『新世界の踊り』Dance of the New World (1992) 、オーストラリアの『シャカタ』Shakata: Singing the World into Existence (1989) 、アフリカの『ピース・オブ・マインド』Piece of Mind (1987) *5とヨーロッパの外から広く題材を求めるダナ・ウィルソン Dana Wilson (1946-) *6の名前も挙がるでしょう。

ただ、薄い響きを恐れない点や、音の空間的な配置ということでは、交響曲の多作で有名なアラン・ホヴァネス Alan Hovhaness (1911-2000) が近いように思えます。東洋のフォークロアの参照を打ち出した点、徹底した単純志向は違いますが、打楽器の重用や楽器の明確なグルーピングで広がりのある響きを作り出すところには共通するものがあります。

 

『メキシコの祭り』の演奏は、ダン/ダラスWS (Reference Recordings, 1991) か、木村吉宏/大阪市音楽団盤 (東芝EMI, 1996) を。どちらも精巧さと快活さを兼ね備えた秀演です(大阪市音楽団盤のほうがやや柔らかくブレンドされた響きに感じます)。両者のカップリングの違いからは、この曲が祭りの情景を反映した作品であるとともに、無限の広がりを持つ「交響曲」というジャンルの一つであることを思いださせられます。

Fiesta!

Fiesta!

 
ウィンド・オーケストラのための交響曲 Vol.4

ウィンド・オーケストラのための交響曲 Vol.4

  • アーティスト:木村吉宏
  • 発売日: 2009/04/22
  • メディア: CD
 

 

Symphonies Nos. 4 20 & 53

Symphonies Nos. 4 20 & 53

  • 発売日: 2005/11/15
  • メディア: CD
 

*1:先行作のコープランド『エル・サロン・メヒコ』は都会の情景を下敷きにしていますが、こちらはどちらかといえば地方の情景に裏付けられています。どちらも他者が採譜した民謡を使っていたり、リードが実地に体験した音楽にはメキシコシティのものも含まれたりと、そうきれいに分けられるものでもありませんが。

*2:6年後に陸軍野戦部隊バンドのため作曲されたジェンキンス Joseph Willcox Jenkins (1928-2014) の『アメリカ序曲』American Overture (1956) でもホルンが響きの充填を離れて活躍します。こちらはバルトークの『管弦楽のための協奏曲』第5楽章冒頭が念頭にあったとのこと。

*3:直接的な参照先は『ペトルーシュカ』でしょうが、ワーグナーの「森のささやき」などを通過して『幻想交響曲』あたりまではさかのぼれそうです。

*4:並べて言及されることの多い『チャマリータ!』Chamarita! (1981)は、ポルトガル系コミュニティの祭りを題材にしたから、ということではないでしょうが、コープランド風にぐっと「アメリカン」な響きとラテン風の舞曲が対比されます。

*5:定番はコーポロン/シンシナティWS (Klavier, 1993) ですが、フランセン/ベルギー王国ペーア吹奏楽団 Koninklijke Harmonie van Peer (World Wind Music, 2001) の劇性と高揚感も捨てがたいです。

*6:ほかには奏者による発声が印象的な Sang! (1993) や リズミックなオープナーの Shortcut Home (2003) 、ホルン協奏曲 (1997/2002) など一連の吹奏楽伴奏の協奏曲あたりも取り上げられます。このあたりの時代になると、打楽器の大量動員によるビート感の強調も一般的な手法になっています。

16. ロバート・ラッセル・ベネット:古いアメリカ舞曲による組曲

生涯で20曲近くの吹奏楽作品*1を残したロバート・ラッセル・ベネット Robert Russell Bennett (1894-1981) は、同時代のアメリカの作曲家の多数と同様、パリでナディア・ブーランジェに師事し、新古典主義の潮流をくぐっています。『4つの前奏曲』(1974) あたりを聴くと、からっと乾いた和声にいかにも、と思わされるものがあります。

しかし彼のキャリアを説明するにあたってもっとも重要なのはおそらく、映画音楽同様に分業の進んだブロードウェイミュージカルにおける、オーケストレーターとしての仕事です。担当した作品には例えば『ショウ・ボート』『マイ・フェア・レディ』『サウンド・オブ・ミュージック』があった、と書くと功績がわかりやすいと思います。前述の『4つの前奏曲』も、交流のあったブロードウェイのソングライターたち、ガーシュイン*2、ユーマンス、コール・ポータージェローム・カーン、の名前を冠した曲集でした。新古典主義とジャズ、劇音楽(映画音楽も含む)由来のゴージャスな響きはどれもアメリカの吹奏楽作品をたどっていくと欠かせない要素ですが、ベネットは典型的にそのすべてを背負った存在として吹奏楽史に意義深い位置を占めています*3

似た存在としては20歳ほど年下のモートン・グールド Morton Gould (1913-1996) がいて、『ウェスト・ポイント交響曲Symphony for Band, "West Point" (1952) 、『第2アメリカン・シンフォネット』からの「パヴァーヌPavanne (1961) 、『ジェリコJericho Rhapsody (1941) と並べると、それぞれの側面が作品に表れていることがわかります。コルバーン/アメリ海兵隊バンド盤 (Altissimo, 2013) に吹奏楽の有名作がまとまっている*4のをはじめベネット以上に演奏会用作品の録音には恵まれていて、一般的なイメージと異なり*5深刻さに傾いた『ホロコースト組曲 Suite from "Holocaust" (1980) など含め、全貌はある程度見えやすくなっています。

 

第一次大戦の従軍時や野外演奏用の委嘱でバンドに関わったのち、ゴールドマン・バンドの演奏で本格的に吹奏楽の魅力と可能性に開眼したベネットは『古いアメリカ舞曲による組曲Suite of Old American Dances (1949) を作曲し、この後継続的に吹奏楽作品を提供していく皮切りになります。このとき聴いたのがカーネギー・ホールで開かれた、オーケストラ作品で有名な作曲家の作品を中心にした演奏会であったことは、幼少時からアカデミックな教育を受けてきたベネットの一種の「本物志向」が表れているように思います。

幼いころの思い出を元に、当時としてもオールドファッションなスタイルのジャズを取り入れたこの作品は、それだけに初めから歴史のなかに置かれ、誰にとっても親しみやすい作品であり続けています。フェネル/EWEが録音 (Mercury, 1954) して以来の人気曲だけに好演は多いのですが、古き良きアメリカをテーマにした一枚の核になっているコーポロン/シンシナティWS (Klavier, 1995) が一番に薦められるのではないかと思います。シューマン『ニューイングランド三部作』のときに紹介したグレアム/アメリカ空軍バンド盤もいいのですがすこし威勢が良すぎるかもしれません。 

もう一つの有名な作品である*6『シンフォニック・ソング』Symphonic Songs for Band (1957) も、ジャズからの影響は明らかですが扱いにはかなりひねりが入っていて、ベネットの音楽的出自をより広い範囲で示すものになっています。これも『ニューイングランド三部作』の項で言及したフェッティグ/アメリ海兵隊バンド (Altissimo, 2014) の演奏が洗練されていておすすめです。

American Variations

American Variations

  • 発売日: 1995/08/22
  • メディア: CD
 
Be Glad Then, America

Be Glad Then, America

  • 発売日: 2016/05/27
  • メディア: MP3 ダウンロード
 
Gould: An American Salute

Gould: An American Salute

  • 発売日: 2013/10/01
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

*1:バンド編成のみ。ほかにも管楽オーケストラ—―オーケストラから弦を抜いた編成の作品が十数作あります。

*2:ポピュラーとクラシック音楽を股にかけたアメリ音楽史の重要人物の一人ですが、そもそも大編成作品のスコアリングを行ったのが少ないのもありバンドへの直接の関与は多くなく、編曲を通して親しまれています。有名な『ラプソディ・イン・ブルー』の初演稿 (1924) は管楽器中心のジャズバンドが伴奏するように書かれており、オーケストレーションを担当したグローフェ Ferde Grofé がコンサートバンド(ピアノは割愛可能)のための編曲 (1938) も作っていますが、吹奏楽団にいちばん取り上げられるのはグローフェの複数バージョンを参照したハンスバーガーによるウインドアンサンブル編曲 (1998) でしょうか。ガーシュイン自身が管弦楽配置を行うようになったピアノ協奏曲 (1925) にもグローフェによるジャズバンド編曲 (1928) があります。

*3:蛇足ですが、イニシャルが同じイギリスのリチャード・ロドニー・ベネット Richard Rodney Bennett (1936-2012) も映像音楽の分野で活躍し、管楽器と縁が深く『朝の音楽』Morning Music (1986)『四季』The Four Seasons (1991) トランペット協奏曲 Concerto for Trumpet and Wind Orchestra (1993) といった吹奏楽サクソフォンを加えた管楽オーケストラ)作品を残しているのは面白いです。

*4:なかば吹奏楽曲として扱われているフィリップ・ラング編曲の『アメリカン・サリュート』など含め。

*5:『プリズム』Prisms (1962) はバンド分野でのアバンギャルドの早い例として名前が挙がります。50年代末からジャズにアカデミックな手法を持ちこみ "サード・ストリーム" の渦を起こしたガンサー・シュラー (1925-2015) による多数の管楽作品――金管と打楽器のための交響曲 Symphony for Brass and Percussion (1950) 、5群のアンサンブルのための『3つのインヴェンション』Tre Invenzioni (1972) 、トロンボーンとアンサンブルのための『アイネ・クライネ・ポザウネンムジーク』Eine Kleine Posaunenmusik (1980) 、交響曲第3番 Symphony No. 3 "In Praise of Winds" (1981) などと並べて考えることができるでしょうか。

*6:この2曲のほか、認知度は落ちるけれど重要な作品を併録したルンデル/王立ノーザン音楽大学WO盤 (CHANDOS, 2016) は演奏と録音にすこしばかり強引さは感じますが好企画です。

15. W.シューマン:ニューイングランド三部作

ウィリアム・シューマン William Schuman (1910-1992) も新古典的なアメリカの作曲家の一人で、『第3番』(1941) をはじめとする交響曲群で知られています。ほかの作曲家たちと比べるとシューマンは外向的な親しみやすさを素直に打ち出す方向とも親和性があり、『アメリカ祝典序曲』American Festival Overture (1939)や、このニューイングランド三部作』New England Triptych (1956/1957/1975)、アイヴズ*1の『アメリカ変奏曲』の管弦楽編曲 (1964) といった特によく知られている作品はこちらの系譜に属します。

ニューイングランド三部作』は管弦楽のために作曲されて人気を博したあと吹奏楽へ改作されているのですが、3曲が別々に編曲されているのと、さらに曲集の看板となる3曲目『チェスター序曲』Chester, Overture for Band  は管弦楽バージョンの2倍の長さになり(だから単独で取り上げやすく有名になったというのはあるでしょう)中身もほとんど別物になっていて、と複雑な成り立ちをしています。『チェスター序曲』は素材と全体のムードこそ共通していますが管弦楽のときと同じ展開をする部分のほうが少ないくらいで、管楽器は比較的シンプルに動く一方で打楽器が曲の推進力として重要な働きをしているのも興味深いところです。

三部作を揃えたものに限っても録音は多数あるなかで、グレアム/アメリカ空軍バンド (Altissimo/Klavier, 1996) を。張りのある演奏で、曲によく合っていると思います。ちょっと元気が良すぎると感じる向きにはフェッティグ/アメリ海兵隊バンド (Altissimo, 2014) がバランスの取れた好演。

ニューイングランド三部作』に先立って吹奏楽のために作曲されたジョージ・ワシントン・ブリッジ』George Washington Bridge (1950) は、比べると豪快ながら質朴な感触があり、セクションを塊として扱う一聴瞭然のテクスチュアで書かれています。こちらもよく取り上げられていていろいろと録音がありますが、スラットキン/アメリ海兵隊バンドのライブ (Altissimo, 1998) が前進するエネルギーのわかりやすい演奏。

『三部作』のなかではいちばん対位法的に手の込んだテクスチュアをしている1曲目の『喜びあれ、アメリカ』Be Glad Then, America について、シューマンは最後まで編曲を渋っていたそうで、『チェスター序曲』の改作や『ジョージ・ワシントン・ブリッジ』と合わせると、50年代のシューマンがバンドをどう捉えていたのかというのがわかる気がします。

 

シューマンに限らず、この時代のアメリカで、新古典的でアカデミックな作法を出発点にした作曲家は作品数の差こそあれ軒並み吹奏楽に関わっていて*2、よく知られているところではウォルター・ピストン『タンブリッジ・フェア』Tunbridge Fair (1950) やピーター・メニン『カンツォーナ』Canzona (1951) があり*3、共通した力強いスタイルを体現していますが*4、彼らの親玉とでも言いましょうか、平明さをコンセプトとして打ち出して隔絶した知名度と影響力を誇り、分野を問わず「アメリカ的」な響きの模範の一つを作ったアーロン・コープランド Aaron Copland (1900-1990) もバンドのための作品を残しています。CBDNAの委嘱で書かれた『エンブレムズ』Emblems (1964) 以外、『戸外のための序曲』An Outdoor Overture (1941)、『シェイカー教徒の旋律による変奏曲』Variations on a Shaker Melody (1960)、『赤い子馬』組曲 The Red Pony, Film Suite (1968)といったあたりはすべて管弦楽作品からの自編で、どれも広い範囲にリーチすることを意識した、抜けの良い語法が反映されています。ハミルトン/アメリカ陸軍野戦部隊バンドの "Legacy of Aaron Copland" (Altissimo, 2011) でひととおり揃います。

 

セレブレーション Celebration

セレブレーション Celebration

  • 発売日: 2009/10/25
  • メディア: CD
 
The Bicentennial Collection, Vol. 9

The Bicentennial Collection, Vol. 9

  • 発売日: 2011/07/01
  • メディア: MP3 ダウンロード
 
Evolution

Evolution

 

*1:よく演奏される『カントリーバンド行進曲』は、もともと小編成オーケストラのための譜面が書かれていた(オーケストラによるバージョンはのちに『ニューイングランドの3つの場所』(1903-14/rev. 1929) の第2曲に発展)のを、アイヴズ作品の校訂や編曲に携わるジェイムズ・シンクレアがバンド編成に「戻した」もの。『ジョージ・ワシントン・ブリッジ』と同日のスラットキン/アメリ海兵隊バンドの演奏 (Altissimo, 1998) は作品の奇矯さがよくわかります。アメリカのバンド文化に親しみながら成長したアイヴズは初期にいくつかの行進曲を書いているほか(現存作はフォーリー/アメリ海兵隊バンド盤 (2003) に収録)、Scherzo: Over the Pavements (1909-10) や December (1912? 14?) 、小管弦楽のための『セット』第1番 (1907-15) 第8番 (1920s?) のなかの数曲を弦楽を含まないアンサンブル編成で書いています。

*2:続いて挙げる以外の例にはロイ・ハリス、ヴァージル・トムソン、(十二音技法の導入などの尖鋭性をバンド分野ではあまり見せなかった)ウォリングフォード・リーガー、この時期はイタリア在住だったため時代は下りますがデヴィッド・ダイアモンドなどがいます。もっと言えばヘンリー・カウエルやウィリアム・グラント・スティル、レオ・サワビーなどを含む、明快さを志向したアメリカの作曲家全体にあてはまるかもしれませんが。

*3:ロバート・クルカ Robert Kurka (1921-1957) が管楽オーケストラ編成のために書いた、ヴァイルの『小さな三文音楽』を彷彿とさせる『良い兵士シュヴァイク』組曲 Good Soldier Schweik Suite (1956) もここに並ぶ位置付けでしょうか。組曲を発展させて作られたオペラは『三文オペラ』とともに珍しい管楽伴奏オペラの作例です。

*4:どちらも作曲家連盟 League of Composers を通したゴールドマンの委嘱シリーズの一つです。前者はコーポロン/シンシナティWS (Klavier, 1991)、後者はグレアム/アメリカ空軍バンド ("Evolution", Altissimo/Klavier, 1999) を推薦。

14. パーシケッティ:ディヴェルティメント

1940年代から始まっていた流れ*1が戦後、50年代になると本格化し、アメリカの作曲家たちによって吹奏楽のレパートリーは大きく拡大しました。そのなかでまず紹介するのがヴィンセント・パーシケッティ Vincent Persichetti (1915-1987) です。新古典的で、アカデミックな、シンフォニスト*2という立ち位置は同時代のアメリカでは何人もの例が浮かびます。しかし、ほかの面々がしばしばヒンデミット風の綿密に組み立てられたアンサンブルを要求し、表現としては爽快でヒロイックな感触を持っているのに対して、簡明な構造や大仰にならないウィットを指向するパーシケッティの態度はどこかストラヴィンスキーにも似て、やや独特のものがあります。

作品表を10本の管楽器のためのセレナード第1番 op. 1 (1929) で始めたようにパーシケッティは管楽器との縁も深く、1950年には最初のバンド作品『ディヴェルティメント』Divertimento, op. 42 を作曲します。

委嘱を受けずに書きはじめられたこの作品を初演したのは『木陰の散歩道』などのエドウィンフランコ・ゴールドマン(と後には息子のリチャード)率いるゴールドマン・バンドでした。1929年の大恐慌によって「バンド音楽の黄金時代」に終止符が打たれてからも、ゴールドマンのバンドは数少ない民間のプロバンドとして活動を存続させ、吹奏楽のために書かれた作品の初演*3や発掘*4、委嘱*5に精力を傾けていました。この時期、フェネルとイーストマン・ウィンド・アンサンブルの活動の成果を今見るとすでに存在していたレパートリーの再編成・整理という側面が強いのに対して、それ以上に新しいレパートリーの創出に力を注いでいた*6のがゴールドマンとゴールドマン・バンドでした*7。1942年6月21日には、当時珍しいバンドのための作品だけによるプログラムの演奏会を開いています。EWEと比べると現在いまひとつ認知度が低いのは録音の事情もあるでしょう。ゴールドマン・バンドも相当数の録音を残していますが、広く流通した音源はマーチ中心ですし、そのほかもEWEの先進性を打ち出したアルバム群に比べるとやや前の時代に寄った選曲の地味さは否めません。

バレエのためにスケッチした音楽をもとにしたという『ディヴェルティメント』についてパーシケッティは、金管群・木管群・ティンパニが対話する冒頭部分を書いたところで、この作品に弦楽器は必要がないことに気付いた、と語っています。全体に軽快に作られた音楽で、和音と単旋律からなるシンプルな作りの場面が支配的ですが、和声やリズムのひねりによって単調さを避けています。オーケストレーションはやや分厚く大づかみなものの(この時代までの吹奏楽作品の多くに共通する点です)、打楽器*8も含めた音色の交代は効果的で、ソロの生かし方も堂に入っています。

その後パーシケッティは吹奏楽との関わりを続け、合唱の入る『セレブレーション』Celebrations, op. 103 (1966) を含めて15曲をバンドのために残しました。上述したようなバンド書法の特徴は、他の作品でも大きく変わることがありません。『ディヴェルティメント』と似たコンセプトながらさらに凝縮されたセレナード第11番 op. 85 (1960)、親しみやすさと柄の大きさを両立させた詩篇Psalm, op. 53 (1952) や『ページェント』Pageant, op. 59 (1953)、著書「20世紀の和声法」のための譜例を取り入れた変奏曲である力作『仮面舞踏会』Masquelade, op. 105 (1965)、次第に晦渋に変化していった後期のスタイルが現れているパラブル第9番 Parable IX op. 121 (1974)、そして忘れてはいけない記念碑的な交響曲第6番 op. 102 (1956)  と、現在でもレパートリーとして取り上げられる作品が目白押しです。

ここまで挙げてきた作品が、コーポロン/ノーステキサス大学WS盤 (GIA Windworks, 2004) では1枚で聴けます。こうした新古典的な作品はしっかりと方向性が打ち出された演奏で聴きたいのですが、この録音は文句ありません。なお、この盤には入っていない『おお、涼しい谷間』O Cool Is the Valley, op. 118 (1971) や3曲ある「コラール幻想曲」のような静かな作品も、合唱の分野に多くの作品を残したパーシケッティにとっては重要な側面で、エイモス/ロンドン響管打楽器アンサンブルのこれも世評の高い盤 (Harmonia Mundi / NAXOS, 1994)で触れることができます。

パーシケッティ:ディヴェルティメント

パーシケッティ:ディヴェルティメント

  • アーティスト:エイモス
  • 発売日: 2006/06/01
  • メディア: CD
 

*1:これまで言及した作品のほかに、W.シューマン『5つの場面のニュースリール』Newsreel in 5 Shots (1941)、クレストン『レジェンド』Legend (1942)、M.グールド『ジェリコ』Jericho (1941)『バラード』Ballad (1946) など。ちなみに『レジェンド』と『バラード』は後述のゴールドマン・バンドのために書かれています。

*2:交響曲は9曲書いていますが、最初の2曲は自身によって破棄。

*3:グレインジャー『リンカンシャーの花束』ミヨー『フランス組曲』シェーンベルク『主題と変奏』など。

*4:ベルリオーズ『葬送と勝利の大交響曲』をはじめとするフランス革命期前後の作品、デ・ナルディス『宇宙の審判』Il Giudizio Universale (1878?) 、ミャスコフスキー交響曲第19番 (1939) などのアメリカ初演を行っています。

*5:アメリカの作曲家以外ではルーセル『栄光の日』A Glorious Day (1933) など。レスピーギ『ハンティングタワー』Huntingtower (1932) も初演団体は違いますがゴールドマン絡み。ラヴェルが作曲の約束を果たす前に亡くなってしまったというのは無念の極みです。

*6:「ゴールドマン・バンド」への改名前の1920年にはグレインジャーとヴィクター・ハーバートを審査員に迎えて「シリアスな」バンド作品のコンクールを開いていたといいます。

*7:言わずもがなですが、ゴールドマン・バンドの演奏会では編曲作品も取り上げられています。リチャード・フランコ・ゴールドマンはオリジナル作品・新作に取り組む理由として、「『レ・プレリュード』やチャイコフスキーの四番のフィナーレのような作品について、私が演奏しない理由は単純に、どれほどのバンドでもボストン交響楽団フィラデルフィア管弦楽団(...)に肩を並べる演奏はできないからだ。それに加えて、こういった作品はコンサートやラジオでオーケストラが十分な頻度で演奏していて、バンドで演奏する現実的な必要性はすべて削がれている」と発言しています。

*8:この作品の編成は控えめですが、交響曲第6番や『仮面舞踏会』などで活躍する複数台セットの太鼓(Alto/Tenor/Bass Drum 、Snare Drums)は後年一般的になるトムトムの用法を先取りしています。

13. バーバー:コマンド・マーチ

交響曲第1番 (1936) や『弦楽のためのアダージョ』(1937、弦楽四重奏曲第1番から編曲) で若くして名声を得ていたサミュエル・バーバー Samuel Barber (1910-1981) は、開戦後の1942年に陸軍航空隊(のちのアメリカ空軍)に入隊*1、兵役と強く結びついた作品として、交響曲第2番 (1944/rev.1947) と、この『コマンド・マーチ』Commando March (1943) が書かれています。

演奏機会ははるかに少なくなりますが、同時期に書かれてショートスコアのみが現存している『葬送行進曲』Funeral March (based on the Army Air Corps Song) という作品もあります*2。いずれにせよ、戦時中というのはあるでしょうが吹奏楽とマーチの強い結びつきを物語っているジャンル選択のように思います。ワーグナーブルックナーチャイコフスキーサン=サーンスプッチーニショスタコーヴィチなど、吹奏楽のためにマーチ「だけ」書いている有名作曲家は割といて*3、マーチに準じる舞曲系・式典系の音楽も含めるなら相当な数になります。

作品自体は、三連符の特徴的なリズムを軸に、伸びやかな旋律を歌う主部、中間部の落下傘か爆弾が落ちるようなトロンボーングリッサンド*4と、親しみやすくもきりりとしたコンサートマーチに仕上がっています*5。極力楽器を重ねないオーケストレーションも、スマートな響きに一役買っているでしょう。

比較的振れ幅の大きい作曲家で*6、「新ロマン派」というラベルを素直に呑み込めない作品も多いのですが、この作品は基本的にはロマン派の表現を引き継ぎながら、抜けのいい響きや、ときに見せる鋭角的な構造には新古典主義を通ってきたことがうかがえます。こうした作風は同世代のアメリカの作曲家ではやや主流から外れたところにありますが、もっと下の世代の作曲家たちにとってのモデルの一つになっているでしょうし、のちの吹奏楽作品の展開にも通じるものがあると思います。

その由来ゆえかやはり空軍がらみのバンドが多く録音しています。ラング/アメリカ空軍ヘリテージ・オブ・アメリカ・バンド (Altissimo, 2008) の演奏は作品のかっこよさをよく表現していると思います。空軍関係の曲を集めたレインデッカー/アメリカ空軍コンサートバンド (Altissimo, 2003) 盤もいいですがちょっと重く感じるかもしれません。

United States Air Force Heritage of America Band: Early Light

United States Air Force Heritage of America Band: Early Light

  • 発売日: 2011/05/01
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

*1:同じ時期にグレン・ミラーも陸軍航空隊に入隊していて、『セント・ルイス・ブルース・マーチ』などにつながっていきます。A.リードも陸軍航空隊で吹奏楽に出会っていますし、探せば同じような例がいろいろありそうです。

*2:Peter Stanley Martin が吹奏楽譜に起こしたものが今年初演・出版されるそうです。Robert Cray による吹奏楽配置バージョンは "Air Force Dirge" というタイトルで、空軍ヘリテージ・オブ・アメリカ・バンド United States Air Force Heritage of America Band の録音 (2000s) があります。

*3:日本では国体などのためのマーチのみ、という作曲家がかなりいます。

*4:スーザ『自由の鐘』とか、ゴールドマン『木陰の散歩道』とか、トリオで「飛び道具」が出てくるマーチを連想します。

*5:スーザやゴールドマンなど、これまでの吹奏楽を前提にしたマーチ(の多く)がなんだかんだ言いながらもまだ「歩けた」のに対して、歩行のイメージがより抽象化されています。

*6:大ざっぱに概観するなら、ヴァイオリン協奏曲 (1939) のあたりに尖った作風への転機があると見ていいでしょう。

12. アルフォード:ボギー大佐

軍楽隊がある場所には必ず行進曲があり、たいていの国の吹奏楽団のためにマーチが生まれています。作品の受容は演奏会用の音楽以上に国や軍楽隊の状況に依存することも多く*1、国を越えてレパートリーになるにはいくつか関門を越える必要がありますが、実際、アメリカやドイツ以外のマーチも確実に演奏機会が存在します。

その中で、鳴りつづける対位旋律が印象的なケネス・アルフォード Kenneth Alford (1881-1945) の『ボギー大佐』Colonel Bogey (1914) の名前を挙げたのは、ホルストやヴォーン=ウィリアムズの作品と同時代の軍楽隊発のレパートリーであること、世代や受容層を問わずに抜群に知られた「吹奏楽曲」であることからです。ちなみに、プリマス海兵隊バンドを指揮した本名のフレデリック・リケッツ名義の録音があり、歯切れのいい発音で揃えられた演奏には興味深いものがあります。

その他のアメリカ・ドイツ以外のマーチで、現在も知られたレパートリーと言えるものを思いつくままに列挙していくなら、アルフォード*2の『ナイルの守り』Army of the Nile (1941)『シン・レッド・ラインThe Thin Red Line (1908) 『後甲板にて』On the Quarter Deck (1917) 、デイヴィス『英国空軍分列行進曲』Royal Air Force (RAF) March Past (1918) 、フランスのガンヌ『勝利の父』Le Père la Victoire (1888)『ロレーヌ行進曲』Marche Lorraine (1892) 、ラウスキ『サンブル・エ・ミューズ連隊行進曲』Le Régiment de Sambre et Meuse (1879) 、ノルウェーのハンセン『ヴァルドレス』Valdres (1904) 、リーマンス『ベルギー落下傘兵行進曲』Marche des Parachutistes Belges (1946) 、オランダのウィヘルス『医師の行進曲』Mars der Medici (1938) 、ロシア/ソ連のチェルネツキー『モスクワに敬礼』Салют Москвы/Salute to Moscow (1944)『戦車兵たち』Марш танкистов/March of the Tankists (1943)、オーストリア*3ではJ.F.ワーグナー『双頭の鷲の旗の下に』Unter dem Doppeladler (1893) 、ボヘミアのフチーク*4『剣士の入場(雷鳴と稲妻)』Einzug der Gladiatoren (1899)『フローレンティナー行進曲』Florentiner Marsch (1907) 、というあたりでしょうか。

(基本的に吹奏楽用の)マーチを国際的に大づかみにするディスクとして、まずはフェネル/TKWOの一枚(キングレコード1984)を。収録曲は少なめですが、この手の企画に入っている定番曲はひととおり収められています。フェネルはEWEとも『海を越えた握手』の題名で同様のディスク(Mercury, 1959。CDではアルバム "Marching Along" を併録)を作っていて、まとまった音作りが印象に残るTKWOに比べてこちらの張りのある演奏を好む向きもあると思います。

同じようなコンセプトのディスクは多数あって*5、演奏団体や選曲の好みで選んでいただければいいと思いますが、新しめのなかでは、定番と珍しい曲をバランスよく配した武田晃/陸上自衛隊中央音楽隊*6の『アーネム』(フォンテック、2017)と、編曲ものもある程度含みますがかえって各国の気質はわかりやすそうなヨハンソン/スウェーデン王立空軍軍楽隊『ストライク・アップ・ザ・バンド』(NAXOS, 2004)を推薦しておきます*7

アーネム ベスト オブ マーチ3

アーネム ベスト オブ マーチ3

 
The Music of Kenneth Alford

The Music of Kenneth Alford

  • アーティスト:Kenneth J. Alford
  • 出版社/メーカー: Chandos
  • 発売日: 1992/10/28
  • メディア: CD
 

*1:演奏会用の作品には国境がないというわけではないですが。

*2:興味があればメイソン/王立海兵隊バンドによる行進曲全集 (CHANDOS, 1975) もどうぞ。

*3:よく取りあげられるシュランメル『ウィーンはいつもウィーン』Wien bleibt Wien! (1877) のオリジナルは吹奏楽でないということで、コーツ『ナイツブリッジ行進曲』『ダム・バスターズ行進曲』サン=サーンスフランス軍隊行進曲』あたりとともに除外。

*4:ヤルヴィ/ロイヤルスコティッシュ・ナショナルOの管弦楽作品集 (CHANDOS, 2015) はこの作曲家をオーケストラ音楽の文脈と繋げられる良いディスクです。

*5:今回はマーチというジャンルをアメリカ(行進系)/サーカス/ドイツ/世界(ヨーロッパ)と分けてきたわけですが、スーザ/ゴールドマン他/サーカス/世界(ヨーロッパ)と分けてなぜかアルフォードを複数アルバムに分散させているフェネル/EWE、アメリカ/ドイツ/イギリス/世界と括ってヨーロッパ以外にも目配りしている自衛隊、という視点の違いも面白いです。

*6:自衛隊関連では、同じシリーズをすでに複数推薦しているので控えましたが『世界のマーチ・ベスト』(キングレコード、2005)もなかなか聴けない作品を収録しています。例えば吹奏楽史的に重要なトルコのメフテル(この盤では西洋楽器に編曲されていますが)など。

*7:主旨からは外れますがブルジョワ/アメリ海兵隊バンド『サウンド・オフ!』 (Altissimo他, 1992) も"2枚目"にぜひどうぞ。