06. ミヨー:フランス組曲

シュミットより二回り年下、「六人組」のなかで磊落さのようなものを体現しているダリウス・ミヨー Dalius Milhaud (1892-1974) の作風は、協和音程の多いのびやかな曲想(ありがちですが「南仏の太陽を感じさせる」などとつい言いたくなります)と、新古典主義らしい角の立ったアンサンブルを大きな軸に、アクセントとして複調による軋みを加えていくのが基本で、そこに軽音楽からの影響が加わると代表作として聴かれている『世界の創造』La Création du monde, op. 81a (1923) *1や『屋根の上の牡牛』Le Boeuf sur le Toit, op. 58 (1920) に代表される作品群になります。

しかし平明な傾向と機械的な傾向、どちらかに徹した作品の系列もあり、どこまでも明快なテクスチュアを持つフランス組曲 Suite Française, op. 248 (1944) は前者に数えられそうです*2。作曲当時ミヨーは、ナチスの侵入にともなってアメリカに移住しており(1940年)*3、このあともミヨーはアメリカに関わりのあるバンド作品をいくつか書いています*4シェーンベルクの『主題と変奏』と同様、作曲のきっかけは出版社からのスクールバンドでも演奏できる作品の依頼でした。乗り気で作曲したようなコメントが残っており、平明さを志向したにもかかわらず、程度の差こそあれスクールバンドには難しい作品になったのも同じです。

フランスと同じ連合国であるアメリカの若者に届ける*5という意図もあって、フランスの民謡や民謡調の旋律を用いた組曲ですが、イギリスのペンタトニックと違った全音階的な旋律は肯定的な明るさを放っています。対位法は線的で明快であり、楽器の重ね方も軽く、特に低音金管の節約した使い方が目につきます。モダニストとしての面はもっぱら晦渋にならない範囲で和声を豊かにすることに向けられていて、アメリカの吹奏楽レパートリーに新たな色を添えた作品となったのではないでしょうか*6

音盤ではレイニッシュ/王立ノーザン音楽大学WOが、サクソフォンを強調した明るい色調ながらぎらぎらしたところがなく、落ち着いて聴けます。

French Wind Band Classics

French Wind Band Classics

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Chandos
  • 発売日: 2001/01/23
  • メディア: CD
 

 

*1:楽器編成は管打楽器中心のアンサンブル。

*2:他の例に『春のコンチェルティーノ』op. 135 (1934),『プロヴァンス組曲』op.152 (1936),『マリンバヴィブラフォンのための協奏曲』op. 278 (1947) など。管楽器的には『ルネ王の暖炉』La cheminée du roi René, op. 205 (1939) も挙げたいところです。後者の代表格は、木管十重奏による室内交響曲第5番 op. 75 (1922) や、「同時に演奏すると八重奏曲になる」でおなじみの第14番、15番 (1949) をはじめとするいくつかの弦楽四重奏曲あたりでしょうか。

*3:終戦後も本国とアメリカを行き来しながら精力的に作曲と後進の育成を続けました。新古典主義の独占的な地位が薄れていった時代でもあり、ライヒをはじめ師の影を直接的には感じさせない教え子が目立ちますが、孫弟子にあたり Propagula (1972) や Partita (1980) で知られるロバート・リン Robert Linn は自らミヨーへの意識を認めています。

*4:『解放によせる2つの行進曲』2 Marches pour la libération, op. 260 (1945-46)、『ウェスト・ポイント組曲West Point Suite, op. 313 (1954) 。なお『劇場の音楽』Musique de théâtre, op. 334b (1954/1970) はデジレ・ドンディーヌ絡み、『序奏と葬送行進曲』Introduction et Marche funèbre (1936) はオネゲルイベールなども加わった合作による劇付随音楽『7月14日』の一曲です。

*5:アメリカ人と連合軍が共に戦ってくれた」フランスの地方の名前が各楽章に冠されていますが、ノルマンディーで始まりミヨーの故郷のプロヴァンスで終わる構成を見ると、作曲は44年夏以降のことでしょう。

*6:「六人組」より少し年長のナディア・ブーランジェに教えを受けた新古典主義者たちはアメリカの楽壇の中核になり、吹奏楽作品も少なくないですが、この作品の暖かみはまた違った感触があります。